
かなり飲んだわりに、朝早く目が覚めた。
宴会の流れで水をしっかり補給すると、
翌日が楽になるってホントなんだなぁと感心し、
ペットボトルの麦茶を飲み干してから温泉とサウナへ。
汗をかいて、その汗を流してを繰り返し、
部屋に戻ってチェックアウトまでダラダラして、
地元へ向かう。
愛車のエンジン関連のチェックランプの点灯とアラームは、
今のところ解消されており、いたって快適。
「65歳で引退」
ISMさんは昨夜そう宣言した。
そんなつもりないクセにと冷やかすボクに、言った。
「体力的にはなんとかなるかもしれないけど、
もう気力が保てないと思う」
これまでも同じようなことを何度か聞いた。
でも、それはもっとイタズラっぽく冗談めいた雰囲だった。
「借金を無くすことと後継者を見つけること。
売上だ目標達成だのといくら騒いだって、
俺にとってその2つを超える仕事はなくて。
ガムシャラにやって来て、ふと気づいたら、
どっちもできてたなぁと」
長男は隣町で系列会社の社長となり、
本社では長女の婿が活躍している。
「妬みたくなるくらい事業承継が進んでますよね。
2人とも仕事ができるし、何より人柄が素晴らしい。
でも、まだ、ちょっと危うさを感じます」
ISMさんの雰囲気に気圧され、ボクも真剣に答える。
「危ういって言えば、確かにそうなんだよね。
ただ、あいつらと同じ年齢の時って、
俺はもっと危うかったように思うし、
なんなら今だって危ういし」
その気持は、なんとなく解る。
「俺に残された最後の大仕事は、
社長を辞めることだと思うんだよ」
そういう表情に、いつにない凄みと老いを感じ、
茶化すこともできずしんみりした空気になった。
「知らない街で新しい仕事を始めるのも良いかなって。
すすきのにも飽きたしね」
ISMさんが急におどけ、
MTIさんとボクはその話題に喰いついたふりをした。
いつかはその時が来る。
自分がいつも同じことを考えてながらも、
先輩から直接聞くとどこかさみしい。
そんな夜だった。