Spiral-World

めくるめく世界での個人的な日記

紬人

先帰組の見送りを兼ねて、大島紬村へ立ち寄った。

http://www.tumugi.co.jp/infomation/manufacture.html

あまりに繊細で緻密な技術と、

それが奄美大島で生み出された必然にただただ驚愕。

さらに、そこで教えられた田中一村の絵画を眺め、

心が洗われた。

http://amamipark.com/isson/

「その時折角心に芽生えた真実の絵の芽を

 涙をのんで自らふみにじりました。

 その後真実の芽はついに出ず、

 それがやっと最近6ヵ年の苦闘によって再び芽ぶき

 昨年の秋頃から私の軌道もはっきりして来ました。

 ・・・・この軌道を進むことは絶対素人の趣味なんかに妥協せず

 自分の良心が満足するまで練りぬく事です」

「いま私が、この南の島へ来ているのは、

 歓呼の声に送られてきているのでもなければ、

 人生修行や絵の勉強にきているのでもありません。

 私の絵かきとしての、

 生涯の最後を飾る絵をかくためにきていることが、

 はっきりしました」

「私は紬工場に染織工として働いています。

 有数の熟練工として日給四百五十円也。

 まことに零細ですが、

 それでも昭和四十二年の夏まで(五年間)働けば、

 三年間の生活費と絵の具代が捻出できると思われます。

 そして私の絵かきとしての最後を飾る立派な絵をかきたいと考えています」

「“えかき”は我儘勝手に描くところに“えかき”の値打ちがあるので、

 もしお客様の鼻息を窺って描くようになったときは

 それは生活の為の奴隷に転落したものと信じます」

「私の絵の最終決定版の絵がヒューマニティーであろうが、

 悪魔的であろうが、

 絵の正道であるとも邪道であるとも何と批評されても私は満足なのです。

 それは見せるために描いたのではなく

 私の良心を納得させる為にやったのですから‥」

彼が描いた素晴らしい作品はもちろんだが、

知人に当てて書いた手紙に胸を打たれた。

文面には彼が真の絵描きであろうとする覚悟が綴られている。

自らが選んだ道への強い確信ばかりが並ぶが、

それに相反するジレンマが透けて見える。

その狂気をはらんだ人間らしさに心が震えた。

奄美大島が育んだ伝統工芸と美術作品は、

想像もしなかった感動を与えてくれた。