「急で申し訳ないのだが・・・」
大変お世話になっている同業の大先輩から、
金曜に会いたいと声を掛けられていた。
具体的には何もおっしゃらなかったが、
それが今回の話の重さを表していた。
「忙しいのにありがとうね」
いつものようにニコニコしながら挨拶を交わし、
ひと息つくと共通の取引先ついて話し始めた。
その社名を聞いた瞬間に、
今回の話しの中身がなんとなく分かった。
「かなり資金繰りに困っているみたいで。
大きい取引は気をつけた方が良いと思う」
その会社と我が社は大先輩の紹介で繋がったので、
何かあってはと気にかけて下さったようだ。
資金繰りのことは知らなかったし、
何よりお心遣い頂いたのがうれしかった。
ただ、まったく別の理由で、
その会社とは取引をしないようにしていたので、
単純に、純粋に驚いた。
去年の春先頃からだろうか、
担当者からの無理な提案が続き、
それを断っているとあからさまに態度が変わり、
細かい商品の納期が遅れるようになったからだ。
「もう来なくて良いから」
そう告げたのが4月。
その後の反応を見ていたが、
本人や上司の訪問はおろか電話すら無かったので、
6月で取引を止めることにした。
そういう会社だからか?
そういう社員が居るからか?
おそらく、その両方が原因だと思うが・・・。
「ひと様のことはともかく、ボクらも充分気をつけようね」
大先輩はいつものようにニコニコしながら言ったが 、
その目は笑っていなかった。