井上尚弥がモンスターぶりを存分に発揮し、
井岡一翔が日本人初の4階級制覇を達成。
そうした盛り上がりに関連してか、
ボクシング的な異種格闘技が目につくようになった。
その中心的な存在がキックボクサーであり総合格闘家の那須川天心選手だろう。
若干二十才。
小学生時代から全国優勝を果たしてきた逸材であり、
高校進学と同時にプロデビュー。
総合格闘技ではフライ級で戦い、数々のタイトルを奪取。
「神童」「キックボクシング史上最高の天才」と称され、
日本の総合格闘技やキックボクシングを牽引する実力者だ。
昨年末にはボクシング史上世界最高との呼び声高い、
フロイド・メイウェザーJrと対戦。
試合はボクシングルールの3分3ランド。
体重リミットはメイウェザーに合わせ、
ウェルター級の147ポンド(67.7kg)。
両選手ともに8オンスのボクシンググローブを使用し、
ジャッジなしのエキシビションマッチとして行われた。
4階級もの体格差差。
このような場合、通常は設けられるグローブハンデも無く、
ルールでも体格でも圧倒的不利な那須川だったが、
「それでもやりたい」と受け入れた。
結果はエキシビションマッチとはいえプロ人生で初のKO負け。
それでも、理不尽とも言えるルールを受け容れ、
正々堂々を真剣勝負を挑んだ姿に多くの称賛が寄せられた。
で、その威光にあずかったのが、
ボクシング元世界3階級制覇王者の亀田興毅。
ルールは3分3R、12オンスのグローブにヘッドギアありKO決着のみ。
結果は両者ダウンなしのドローだったが、
判定決着があれば那須川選手が勝ったとの見方が多数だった。
ブランクがあり体重差もありながら、
若手の天才格闘家に挑んだ亀田の勇気は認める。
だが、元世界3階級制覇を達成したとはいえ、
すでにボクサーとしての価値を失っているのは事実。
那須川選手の輝きにすがり、
その意味において、
今回の闘いでより多くのリスクをかかえていたのは那須川選手。
メリットを得られるとすれば、
ボクシングでも世界王者を狙える強さを見せつけた場合だけ。
ともあれ、互いのメリットが噛み合って実現した試合。
それはそれで良いと思う
ただ、ボクシングの名を借りたエキシビションマッチの急増に、
日本ボクシングコミッション(JBC)と日本プロボクシング協会(JPBA)は、
あえて苦言を呈した。
それは封建的だった自らの在り方を内省しながらも、
その枠に囚われないボクシング的なイベントが人気を博すことで、
存在感が薄れるとの警戒心の表れだろう。
これからの人。
これまでの人。
そして、それらを管理し、うまく運用したい人。
それぞれの思惑と存在意義が絡み合った瞬間だった。