夜中にカシャカシャと床を掻く音。
そして、苦しそうな鳴き声。
飛び起きてリビングへ向かう。
やはり、我が家の老猫がてんかんの発作を起こしていた。
身体を痙攣させながらクネらせ、もがき、喘ぐ。
その様は何度見ても胸が締め付けられる。
ここ最近は目も見えず音も聞こえず。
それでもヨロヨロとトイレに向かい用を足そうとする。
間に合わないことも増えてきたが、
それでもけして諦めない姿に彼のプライドを見る。
老猫には同じ母親から産まれた兄猫がいたが、
それからわずか2ヶ月で亡くなった。
その頃にweb掲示板を通じて有効な治療法やサプリを探していて、
FIPの権威と呼ばれる先生と知り合った。
決定的な治療法がないこと。
そして、ほぼ死に至ると知らされ絶望するボクに先生は言った。
「猫はどれだけ痛くても苦しくても、
死んでも良いなどとは絶対に思いません。
最後の最後まで何とか生きようと頑張ります。
私たちはその姿を見守り変わらぬ愛情を注ぐことしかできないし、
それ以外に猫が望むことは何も無いのです」
その後、兄猫が亡くなったとの報告にわざわざ返事を下さった。
「仕事柄、この病気の猫に会う機会が多いのですが、
ごく稀に珍しいケースを見ます。
それは、同じ親から産まれ、同じFIPキャリアで、
同じ環境と条件で暮らしながらFIPを発症しない子がいるのです。
さらに不思議なのは、そういう子は比較的長寿なのです。
無責任な獣医の気休めだと思われるでしょうが、
生き残った猫は兄弟から寿命を受け継いだのではと思えるのです」
その言葉に救われながらも、しばらくは発症の恐怖に怯えた。
特に北海道へ移住した時と、さらに市内での引っ越しの時は、
肝が冷える感覚をリアルに味わった。
そんな心配をよそに、何事もなかったかのように環境の変化に対応し、
自分なりの居場所を作り、自由気ままにのんびりと過ごしてくれた。
飼い猫の平均寿命は14.3歳。
我が家の老猫は先月末に21歳となった。
目が見えず音も聞こえず。
飛び上がったり走ったりじゃれることもできず。
それでもけしてあきらめず生きている。
これまでと変わらずその姿を見守り変わらぬ愛情を注ぐ。
それしかできないし、それが良いのだ。