「じゃ、じゃ、じゃあさ、どーすれば良いの?」
興奮してしゃべるMTNの声は、
いつにも増して大きくなり、
見かねた飲み屋のママがなだめた。
ヤツもボクも移住者。
そして、この町で約20年暮らしている。
「家と仕事があればって発想だけではダメだと思う。
その意味において、正直なところ今回の企画は、
目新しさが無いよね」
移住者を受け入れ、
定住へと繋げるためにどんな工夫が必要か?
その話題でのボクの発言にヤツはイラだった。
今回のイベントは初めて企画会社に依頼。
プログラム内容や応募者の選定、
その就業先までをすべて任せる初の試みだった。
だからこそ期待が膨らみ、
それに対する地元企業などの薄い反応に苛立っていたのだろう。
「全国でもけっこうな知名度がある町なのに、
なかなか定住につながらない」
その悩みには今に始まったことではなく、
この町が移住促進に取り組み始めた10年ほど前からの課題でもある。
知名度が高い分、実生活とのギャップが大きい。
そして、人口規模の割に経済規模は大きいが、
その分、家賃なども近隣の比べて高い・・・。
考えられる要因はいくらでもある。
「何が原因なんだろう?」
「それが分かったら苦労しないだろ。
ただ、移住者を増やそうという町としての貪欲さは無いよね」
10年ほど前にも同じ話をした。
その間に、近隣の町村はあの手この手で移住者獲得に注力。
行政マンとして焦るのも分かる。
「今回の参加者はどうするんだろう?」
ヤツは心配そうにつぶやいた。
「オレたちにできることは限られてるけど、
滞在してくれている間、しっかり関わるしか無いよね」
あたり前のことしか言えなかった。