その時、ボクは知人と札幌にいた。
かなり混みいった話をしていたし酒も飲んでいた。
いつもなら見逃すパターン。
なのに、なぜかKYSからのメールに気づいた。
「無念」
そのタイトル、
いや、差出人と時間から内容は分かった。
分かってしまった。
KYSの奥さんが脳梗塞で倒れてからの日々を、
気安く語ることはできない。
KYSとは40年。彼女とは30年。
互いに人生の大きな節目に立ち会って来た。
なのに、大切な友だちが1番苦しい時に、
地元を遠く離れ、増してや無力で何もできず。
ボクはただただ心配するしかなかった。
だから、涙は出なかった。
せめて彼女と会うまでは泣けないと思ったのかもしれない。
知人と別れてカプセルホテルに戻り、
喫煙室でタバコを吸いながら観覧車を見た。
その派手なネオンはビルの窓と街を覆う雪に反射して、
できそこないの万華鏡のように無秩序に華やかだった。
その景色を今もハッキリと思い出せる。