彼女を初めて見たのは8年前か。
神奈川での事業を手掛けたばかりで、
心身共に疲弊しており。
ちょっとした空き時間を見つけては、
喫茶店やファミレスに立ち寄って、
タバコを吸いながらぼんやりとしていた。
彼女はそんないくつかの店のスタッフの1人だったが、
にこやかで軽やかな動きと、
きめ細やかな気配りにいつも感心させられていた。
そして、いつからかあいさつや短い会話を交わすようになり、
その店と彼女はボクにとって神奈川での「特別」になった。
「ちょっと凹んでまして・・・」
隣の席の片付けをしていた彼女が手を止め、
天井を見上げてつぶやいた。
あまりにも突然で独り言かなと思ったが、
彼女がボクに向き直ったので話しかけられていると気づいた。
「さっきちょっとやらかしちゃって」
深刻な表情から一転、いつものにこやかな表情で言った。
「ダメですね。突然変なこと言ってすみません」
彼女は頭を下げると食器で一杯になったトレーを持って、
ホールへ戻って行った。
会計の時に彼女がレジにいれば、
そう思っていたがタイミングが合わなかった。
あの時、何か声を掛けるべきだったのだろうが、
ボクが何を言おうと彼女には届かなかったようにも思う。
無力感に苛まれて店を出た。