「ボクの思い込みかもしれませんが」
地域の団体職員であるNMTクンがボソッと言う。
「今年になって借入の理由が変わったように思うんです」
ボクはなぜかその団体が行う融資の審査役になっており、
NMTくんは融資を希望する事業所の決算内容などについて、
説明をしながら話してくれた。
これまでは事業拡大や設備投資が多かったが、
最近は資金繰りが目立つという。
「コロナ融資の返済が始まって、
苦戦する事業所がボツボツ出てきました」
その反面、ボクらの町はこの春に、
全国でも屈指の地価上昇率を記録した。
「古くからの観光地ですから、
これまでも似たようなことはあったんですけど、
ここまでの勢いではなかったよなと」
大小さまざまな事業所との関わりを持つ仕事だけに、
いっそう地元経済の動向がリアルに感じるのだろう。
「やっぱり外資が目立つの?」
「それに併せて地元の疲弊ぶりが気になります」
彼が言うよに、
これまではちょっとした空地があれば、
地元で買い手がついていた。
それがこの数年は国内大手や海外資本が買うケースが増えた。
「資産価値が高まるのは悪いことじゃないですけど、
地元経済の実態との格差が広がりすぎて、
歪みが出るように思います」
物価上昇だけでも苦しい上に、
観光関連に外資が多く参入したことで人件費が高騰し、
ただでさえ厳しい人員確保が底無し沼化している。
特に高齢者福祉関連からの人材流出は深刻で、
一部の事業所を閉鎖する法人さえ出てきている。
「ベッドメイクや清掃といった作業も大変ではありますけど、
介助や介護のように直接的に人と関わる大変さはなく、
給料も高いとなると転職しちゃうのも分かります」
「観光は町の主産業のひとつだし、
賑わってくれるのはありがたいんだけどねぇ」
「実に悩ましいです」
2人してタバコを吸いながら、
吐き出す煙に答えの出ない話題の行方を探した。