「今夜は無理だな」
二次会の店の前で共通の知人に呼び止められ、
ボクらは顔を見合わせて苦笑い。
ゆっくり飲もうと話していたので、
TORさんとボクは逃げ腰だったが、それを見透かされた。
「おとなしくお付き合いしますか」
互いの想いは胸にとどめて、その場の雰囲気に身を任せた。
「これはこれで悪くはないんだけどね」
TORさんは言う。
「ボクは身の置き所に困りますけど」
「その割にはうまく馴染んでるじゃん」
「開き直ってるだけですよ」
同じ会合に参加していながら、誰もが誰とも関わっていない。
そういう雰囲気がボクは苦手。
たぶん、TORさんも。
「今夜の集まりの方が一般的なんだろうけどな」
帰りのタクシーの中でTORさんは言った。
「好き嫌いだけで生きられるほど強く無いからね」
初めて2人でゆっくり飲んだ時にも、同じ事を言っていた。
あれからもう10年以上が過ぎた。
変わったようで変わらず。
変わらぬようで変わった。
「また今度、ゆっくりね」
そう言って手を振った。