ページをめくり始めてすぐに、
この本を書店で手にした時の印象を思い出した。
「もしかしたら、読まないかもしれない」
事実、読むまでに5年掛かった。
などと書くと、叱られるかな。
「たかが本だろ? たいそうな理由をつけずに読めよ」
確かにそうだ。
誰が書いたどんな本であれ、本は本でしかない。
そういう方たちの主張に対してボクは反論できないし、
また、する気もない。
だって、作品の価値を決められるのは、
それに触れた本人だけなので。
さて。前置き(言い訳?)が長くなった。
なぜ「この本は読まないかも」と思ったか。
それは、タイトルがとても直接的であり、
ボクに掛けられた魔法の種明かしを想像させたから。
村上さんはデビュー直後の作品の中で、
何度か「作家としての自分」について書いている。
特に印象深いのが「風の歌を聴け」の一節だ。
「夜中の3時に寝静まった台所の冷蔵庫を漁るような人間には、
それだけの文章しか書くことはできない。」
これは、それまでのボクが触れてきたすべての文章の中で、
最もインパクトが強く、実際にボクは魔法を掛けられた。
「ボクにも文章を書くことができるかもしれない」と。
さすがに作家にはなれなかったが、
10年間ライターとしての仕事ができたのは、
この文章と出逢ったからだと断言できる。
それだけに改めて「作家」について書かれているとなると、
多大な影響を受けた者としては、
その中身を確認すべきかどうか不安になったりもする。
ともかく。
今までの村上さんの作品ではありえないことだが、
買ってから5年間ずっと放置されていた本をようやく開いた。
どうなりますことやら(笑)