リモート会議を終えてから買物をし、
部屋に戻って期間限定販売のビールを飲んだ。
ぼんやりとしながら、思った。
電話であり、財布であり、クレジットカードであり、
定期券であり、ポイントカードであり、
超高性能なメモ帳であり、カレンダーであり、
世界中からのメッセージを送受信できるポストであり、
人類史上最大の百科事典であり、
詳細な世界地図であり、
超優秀な案内人であり、
音楽プレーヤーであり、
静止画像もビデオも撮れるカメラであり、
それを使ってリアルタイムでの映像付き会話ができる。
40年前の高校生だった頃のボクに、
それらのすべてが1つでできる道具は何かと訊いたら、
きっと「魔法の杖」と答えるだろう。
不特定多数の誰かと、
上手に付き合うのが苦手ながら、
ボクは直接会って対面したい派。
だが、今日の昼のように、
スケジュール調整が困難な者同士が、
遠隔地でコミュニケーションを取るとなると、
携帯電話を持つまで、
どうやって友だちや彼女と待ち合わせをし、
どうやって日本各地や海外へ行っていたのかさえも、
おぼろげにしか思い出せない。
40年前のボクにとっての魔法の杖は今、
この手の中にあるし、
それ無くしてボクの生活は成り立たない。
だけど、ふと思う。
魔法は手に入れたその瞬間に、
ある種の輝きを失うのだな、と。