Spiral-World

めくるめく世界での個人的な日記

走る。春、を持って。

7-11でコーヒーを買って、街中から郊外への抜け道へ。

しばらくすると長い峠道。

ここらはまだ雪が残っているが、

それもほどなく消えるだろう。

あなたが笑う顔を思い浮かべて、

ひたすら走ってようやく平地へ。

曲線と直線の極端な落差にも飽き始めた頃、

高い煙突たちが目に入る。

「その向こうに海が見えるんだよ」

軽くイラつくボクにいつかあなたが言った。

なので、大丈夫。

今日こそは海を見逃すまいとウキウキしてる。

突然道幅が広くなり、

トレーラーや大型ダンプが目立つ。

タバコを吸おうと窓を開けると微かに潮が香る。

あなたの家まであと少し。

助手席には今朝仕入れたばかりの『春』。

「うまそうな話しばっかじゃなくて食べさせろって」

あなたがそう言っていたアスパラだ。

「了解っス。近い内に。ゼッタイ!」

土曜の夜の飲み会でいつものように調子よく答え、

〆にとお気に入りの蕎麦屋に立ち寄ると、満席。

仕方なくそこで別れた。

「この店も人気が出てきたね」

あなたは笑って「またね」と言った。

ボクは「露地物が出たら送ります」と答えた。

それからずいぶん時間が経ってしまった。

でも、今日は抜かり無い!

玄関先で奥さまと挨拶を交わして、お宅へ。

リビング横の和室に通される。

太くなる一方の腹を互いにさすって笑っていたのに、

ずいぶんと小さくなられて。

ずるいなぁ。汚ねぇぞ。

飾られた花の脇に『春』を供え手を合わせる。

鼻の奥がかなりツンとする。

それは3年分の後悔。

時間はその取り分をけして見逃さない。

「でも、忘れずにいて下さったこと、

 あの人が1番喜んでいると思うんです」

別れ際、奥さまは言って下さった。

今、ボクがここにいる。

それは、今ここにはいないあなたが居たから。

ありがとうございます。

何度も。

何度でも。