試合開始のゴングの直後から、
井上尚弥の勝利は揺るぎないと確信した。
事実、その確信を遥かに上回る速さで勝負は着いた。
控室を出てリングに上がるまで、
井上はいつになく硬かった。
誰よりも井上自身がそれを知り、イラ立ち、怒り、
それらを振り払うように相手に襲いかかった。
112秒。
体格差を物ともせず、クランチする隙すら与えなかった。
世界タイトルマッチとしてはあまりに短く、
しかし、残酷さと美しさが濃厚に絡み合っていた。
大胆に勝機を掴み、細心で仕留める。
井上尚弥の中に棲む天使と悪魔が見えたし、
「これぞまさにボクシング」の醍醐味を感じた。
ゲスト解説の香川照之さんが試合後に満面の笑みで、
「超全盛期のマイク・タイソン並み」と評したように、
相手は井上尚弥のパワーとスピードの前に、
なす術なく立ち尽くし、打たれ、倒れるしかなかった。
「早すぎってクレームは勘弁してください」
勝利者インタビューでそうおどけた。
そして、強さゆえの欠落を嘆く余裕すら見せた。
「この階級で初めての試合だったので、
もう少しバンタムの厳しさとかを味わいたかった」
待ったなし、逃げなしのチャンピオン・トーナメントで、
井上はすでに優勝候補筆頭だという。
この「怪物」、どこまで行くのか。