Spiral-World

めくるめく世界での個人的な日記

ひたる。また。

 友人からの報せが届いた。

 七月に本を出版したばかりだが、今回は文芸誌にエッセイが掲載されたのだという。

俺もいよいよ官能小説家だ

 本人は冗談めかして笑う。

 元プロボクサーでありフォトグラファー。そして、ノンフィクションライターであり、トレーナーとしてボクサーの育成にも関わる。

 いくつもの肩書を持ち、さまざまな活動を展開する彼を、「器用貧乏」とか、「軸足が判らない」と受け取る人もいるかもしれない。

 でも、彼はどこかで「他人の評価など、ほぼどうでも良い」と思っているフシがあり(笑)

 彼が大切にしているのは、興味や魅力を感じた対象と、どんな場面に置いても真摯に向き合うことだ。

 かなり昔、ボクシングについて話をしていた時、彼の信念めいたものに触れたことがある。

 イギリスでプロボクサーとしてリングに上った際に、露骨な地元びいきにあったという。

「ボクシングの魅力は、すごくフェアであること」

 そう力説する彼に、ボクはわざとイジワルな意見をした。

八百長ホームタウンディシジョンなど、露骨に怪しい試合はいくらでもある。プロボクシングはむしろダークでアンフェアな印象」

 と、彼は涼しい顔で答えた。

「そういう部分は確かにあるけど、それは興行が汚しているだけであって。ボクシングの本質とは無関係じゃないですかね」

 ボクサーと傍観者の違い。さらに言えば、表現者としての根本的な資質の違いを、まざまざと突きつけられた瞬間だった。

 そんなことを思い返しながら、届いたばかりの雑誌をめくり、彼が醸す世界観に、またひたる。