羽田からの電車内。
端の席に座りヘッドフォンで音楽を聴いていた。
と、発車間際に乗り込み隣に座ったおじいさんが、
何やら話し掛けてきた。
「この電車って品川まで行きますか?」
いえ。これは横浜方面行きなので、蒲田で乗り換えですね。
「あぁ、逆方面なんですね。また間違えちゃったか」
あ、いえ。
羽田からの電車は蒲田まで行って東京方面か横浜方面に分かれるので、
乗り換えれば大丈夫ですよ。
「あぁ、乗り換え、ね。で、これは蒲田へ行く?」
はい。大丈夫ですよ。
「そうですか。ありがとう。
ところで、乗り換えずに品川へ行くには、
何行きの電車に乗れば良かったんですかね?」
あ、えっと、東京方面の電車はボクもよく分からないんですけど、
これは新逗子行きの電車で、横浜方面ですね。
「はぁ。せっかく教えてもらっても覚えられないかな」
おじいさんは苦笑いしながら駅名を映すディスプレイを眺めた。
ボクもぜんぜん分かってませんし、たまに間違えます。
東京方面はほとんど乗らないので駅名に馴染みが無くて。
ほんと困ります。
そう言うと、おじいさんはうなずき曖昧に笑った。
「どちらからですか?」
北海道です。
「そうですか。私は沖縄からです」
じゃあ、東京は涼しく感じますね?
ボクは暑くて汗をかきました。
北海道は朝晩が冷え込むので、もうストーブを着けてますよ。
「沖縄はまだまだ暑くて、みんな半袖です。
同じ日本なのにぜんぜん違いますね」
そう言って笑っていたら蒲田に近づいたので、
スマホアプリで品川へ行く電車のホームを調べて伝える。
「ご親切にありがとう。おかげで助かりました」
いえいえ。ボクも楽しかったです。
おじいさんは深々とお辞儀をして電車を降りた。
東京の電車の中で日本の南北両端の人が出会い、話す。
拡大し続ける首都圏で目的地を見つけられず戸惑おうとも、
時にはそれが良い時間をしつらえてくれることもある。
さぁ、帰ろう。