「だから、北へ」
クルマに乗り込むとTORさんは行き先と、
そこを選んだ理由を口にした。
「ま、どうでも良いけどね」
登山は賑わっていても温泉狙いの人は少なかろう。
しかも、走って2時間弱。
よもや台風の影響が出ても、すぐに帰れる。
それらしいことを言っているが、
退院後初めてのドライブってことでかなり気を使って下さっている。
「また出血されたら困るからさ」
「あはははは。ボクは本望ですけどね」
「迷惑なの、そういうの。ホントに」
「師匠の役目でしょ。諦めて」
「相変わらず冗談にもセンスが無ぇなぁ」
軽口を叩きながら到着するも、日帰り入浴はなんと12:30から。
それならホテルのレストランでお茶でもと、
いくつかのぞいてみたがどこもお昼からの営業・・・。
「これって協定組んでるよね?」
「そのようですね」
「隣町まで行こうか?」
「そうしましょう」
てなことでさらに約30分。
閉館との札ばかり掛かるホテル群の中で、
唯一営業しているところへ駆け込む。
「俺らはいつもこのパターンだな。思い通りにならない」
「だって、それを楽しんでるんでしょ?」
それには答えず、さっさと風呂を出る。
「運転は任せて良いのか?
何より、昼メシ、何を食べるか考えろよ」
TORさんは風呂上がりにビールを飲む。
で、帰路の運転はいつもボク。
「今日はうどんです。帰りはもちろんボクが運転しますよ」
露天風呂から見える空は晴れ渡り、薄雲が白を落とす。
あぁ、良い気分。