就業体験を終えた参加者の女性と社員を交えて食事をし、
その後、行きつけのバーへ。
ラグビーW杯の決勝で盛り上がる店内の隅で、
いろんな話をした。
と、何気なく彼女の長女気質に触れると突然、
大粒の涙を流し始めた。
なにか非礼があったのかと詫びると、
泣き笑いで首を振った。
「ごめんなさい。急に気が抜けちゃって」
北海道へ移住する人が陥りやすいのが、
がんばり過ぎてしまうことだ。
「手伝って」「助けて」が言えず、
特に冬場に疲れて孤立を深め、移住を諦める。
気丈だし、とってもしっかりとしていている。
でも、移住してしばらくはそのカラを破って、
「困っている」「手を貸してほしい」と言えたほうが良い。
そう話した矢先の出来事だった。
道民は「昔に比べれば暮らしやすくなった」と言う。
それはウソじゃない。
でも、その言葉には見知らぬ町での慣れない暮らしがもたらす、
ストレスや疲弊は含まれていない。
首都圏の通勤ラッシュや大渋滞する道路が生み出すストレスを、
道民がうまく想像できないのと同じだ。
「昔から『お姉ちゃんなんだから』と言われて育って、
人に何かをお願いしたり甘えるのが苦手で。
それを言い当てられて、ちょっとドキッとしちゃいました」
店内のモニターには歓喜する南アの選手たちが映し出され、
それを観に集まった先客たちのボルテージは、
さらに高まっていた。
「なんにもできません。なんにも分かりませんって言ったら、
必ず誰かが助けてくれる。
そういう町だから安心して。
ただ、人と人との距離が近すぎて戸惑うけど」
そう言うと彼女は笑った。
「それはもう解りました」
明日の昼で移住体験ツアーが終わる。