「今夜は土星がきれいに観えますよ」
たぶん、ベルギーだと思う。
ブリュッセルのグランプラスから少し歩いたあたりの店の、
石畳に並べられたテーブルに見覚えがある。
25年ほど前にここでとびきりおいしいムール貝を食べた。
ボクは何故かそこに1人で座り、
黙々とムール貝を食べつ、ワインを飲んでいた。
そうしながらも「これは夢だな」となんとなく思っていた。
だってブリュッセル。
しかも初夏の爽やかな空気と、それを謳歌する人々の賑わい。
長い冬が始まりコロナに怯えている北海道とは天と地の差だ。
おひとり様のボクに気をお使ってくれたのか、
その女性スタッフがグラスにワインを注ぎ足しながら、
ゼスチャーを交えた英語で教えてくれたのだ。
「土星がきれいに観える?」
この人は天文にすごく詳しいのかも。
満月や星空がキレイだよなら、
あいさつ程度に言う人はいるだろが、
「今夜は土星がきれい」とは、ほぼ言わない。
もしかするとブリュッセルはとても星がキレイに観え、
それを観光客にアピールしているか?
なんにしても、ブリュッセルは大都市。
東京ほどの街明かりではなかろうが、
驚くほどの星空が拝めるとは思えない。
つーか、もう20:00を過ぎているというのに、
あたりはまだ夕方のような明るさ。
帰る頃には多少暗くなっているだろうから、
ホテルの部屋から夜空を眺めてみるか。
そう思っていると、周囲の客がざわめき出した。
その視線を追って空を眺めると、
狭い通りの上空に大きな土星が見えた。
昼に観える月のように色は薄いが、
満月より遥かに大きくリングまでクッキリと見えた。
あまりの美しさに呆けながら、
改めて「これは夢だな」と夢の中で認識した。
土星が地球に大接近していると書かれていた。
今回ほどの接近は約400年ぶりで、非常にレアな状況。
次回の大接近は約60年後らしい。
虫の知らせだったのかな。