60年の時を超えて語り継がれる難事件が、
ついに解明されたのでは、とのニュースが流れた。
「ディアトロフ峠事件」は、
雪山登山をしていた男女9人が不可解な死を遂げたもの。
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/21/020100052/
これまでにも何度か「事故」との答えが出されてきたが、
不十分との評価しか得られず、「未解決事件」として扱われてきた。
冬山登山をした一行は-30℃の極寒の中、
不可解にも服を脱いでいたり裸足で外に飛び出したとされた。
また、9人の遺体には争った形跡は無かったが、
頭蓋骨や胸部を激しく骨折していたり、
眼球がなかったり、舌が失われていたりした。
さらに何人かの犠牲者の衣服から、
高い線量の放射性物質が検出されたことなどで、
さまざまな憶測が飛び交った。
スイス連邦工科大学のプズリン氏とゴーム氏は、
今回の論文発表に際しコンピューター・シミュレーションを作成し、
登山者の命を奪った状況の再現に挑んだという。
その結果、事故の可能性が高いことを突き止めた。
まず、小規模雪崩によってできた雪塊が一行のテントを襲った。
彼らのけがは重篤だったが致命的ではなく、
雪に埋もれたテントから脱出。
全員がテント外で発見されていることから、
軽傷者が重傷者を救助したのだと推測。
9人のうち一部の遺体は衣服を身につけていなかったのは、
極寒で衣服を脱いでしまう矛盾脱衣という異常行動で説明できる。
放射能汚染が確認された遺体もあったが、
キャンプ用ランタンに含まれるトリウムの可能性が捨てきれない。
また、一部の遺体の眼球や舌がなくなっていたのは、
単に死亡した後、動物に食べられたせいかもしれない。
「この研究はすべてを説明しようとするものではありません」
ゴーム氏は言う。
謎多き出来事についての合理的な説明を試みたにすぎない、と。
そして、それは一般の人々には受け入れられないのではと危惧する。
事件発生から現在に至るまでさまざまな検証がなされ、
それをもとに多様な推測が繰り返されてきた。
そして、埋めきれない「謎」は、
超常現象や軍の秘密兵器実験などと結びつけられ、
新たな物語として際限なく膨れ上がっていった。
自然現象による事故との公的調査結果が、
これまでにも何度か出されているし、
昨年7月にはロシア最高検察庁も雪崩が原因との見解を示した。
にもかかわらず、多くの人がそれを信じていないし、
存命の遺族はこの結論には納得しておらず、
人為的な要因であろうと推測しているという。
人里離れた雪山で9人が死亡。
その悲惨な状況を語る生存者は存在しない。
たとえ奇跡的に一命を取り留めた生存者が証言したとしても、
多くの人はそれに納得せず、
今と変わらず憶測が飛び交ったはずだ。
「雪崩という説明では普通すぎるのです」とゴーム氏は言った。
多くの謎を含んだ