「謝るつーか、詫びるつーかさ」
乾杯してほどなく、KYSが何か言いたげ。
「なんだ? どーした?」
こいつがこういう言い方をしている時は、
謝る必要も詫びる必要もまったくないケースだ。
「実はさ、ちょっと気になる子がいてよ」
聞いてみれば、テニス仲間の女性から、
それとなくアプローチされているらしい。
「前からミックスではペアを組んでて、
気の合う子だったんだけどね」
こいつがこういう言い方をしている時は、
もう相手はかなり積極的で、
KYS本人も相当その気になっているケースだ。
「で、なぜ、俺に詫びる?」
「いや、だから、ずいぶん前に、
この先もう色恋は無いとかお前に宣言してたから」
ほら、出た。
「謝る」と「詫びる」を照れ隠しに使っている。
そして、先立たれた奥さんに対する贖罪も、
多少なりとも含まれているのだろう。
「そんな気遣いはまったく必要ないだろ。
少しでもお前に幸せになってほしい。
お前が大切にしている人たちはみんな、
そう思っているんだから」
ボクの言葉に、KYSは答えなかった。
「ま、でも、せっかく詫てもらったから、
今日は遠慮なくごちそうになるわ」
KYSはうれしそうに笑った。