モーニングを食べながら新聞を眺めていたおふくろが、
何かを思い出したかのように言った。
「私ね、この配役は違うかなぁと思うのよ」
差し出した新聞には映画紹介の記事。
「ラーゲリより愛を込めて」について書かれている。
30年ほど前、ライターの仕事を始めたばかりの頃、
この書籍に出会い、とても感動した。
その話しをするとおふくろはすでに読んでいたものの、
あまり印象に残っておらず。
再度読んだところ気に入ったようで。
それ以来、時折話題なっていたので、
映画化されると知った時も知らせておいた。
「二宮くんがキライとかじゃないの。
むしろ良い俳優さんだと思っているんだけどね・・・」
「どうやっても雰囲気が柔らかくなる?」
「そうなのよ。ほんわかしちゃいそうで」
シベリアの収容所に抑留された日本兵の遺書を、
仲間たちが驚くべき方法でソ連の厳しい監視をかいくぐり、
遺族に届けた実話に基づく物語。
良い原作であるだけに、多くの人に観てほしい。
その意味において、超人気俳優の登用は理解できる。
反面、戦争の悲惨さや過酷さがリアルだった世代としては、
「甘く」なってほしくないと思うのだろう。
「ニノは『硫黄島からの手紙』でも、
日本兵役を好演してるし、
きっと良い作品になると思うよ」
「そうね。うん。観に行こうかな」
いつものようにとめのない会話が続いた。