ホームコースの中間地点にある駐車帯で、
タバコを吸いつつ休憩していると、
数台のバイクが入って来た。
で、その方々も古いバイクに乗っておられ。
はからずも雑談が始まった。
「SRですよね? けっこうイジってますね」
「あ、これは先輩のバイクで。
カスタムが終わって今日が納車なんですけど、
その前にタイヤの皮むきとテストで」
「あぁ、バイク屋さんですか?」
「いや。違います。単なる小間使いです」
「え? なんかややこしいですね」
今日に限ったことではないが、
TORさんとボクの関係を、
赤の他人に説明するのはほんとに難しい。
そこにオーディオやクルマやバイクがからむと、
さらにややこしくなるので、
話しを切り上げてテスト走行へ戻ろうとしたが、
キックでエンジンが掛からない。
みんなが注目する中、5回、10回とキックするも、
ぜんぜん掛からない。
自分のバイクじゃないとはいえ、地獄の苦しみ。
15回目くらいのキックが失敗した時に、
見かねたライダーが声を掛けてくれた。
「押しますよ。
SRは軽いからすぐに掛かるでしょ」
その言葉に甘えて押してもらうと、
すぐにエンジンが掛かった。
エンストしないようにアクセルを開けながら、
みなさんにお礼を言って、
逃げるように走り去った(笑)
いやぁ、ほんと恥ずかしい。
キックで汗かいて、
エンジン掛からなくて冷や汗をかくという、
なんとも不思議で小っ恥ずかしい体験。
って、いや待て。まだ何も終わってない。
途中でエンストしたら死ぬぞ。
そこからTORさんのガレージに着くまでは、
ポジションのキツさとエンストへの恐怖で、
緊張しまくり。
でも、タイヤの皮むきの目安である100kmを、
なんとか走りきった。
「ごくろうさん。ありがとう」
よく冷えたカールスバーグの小瓶を差し出して、
TORさんは言った。
「試乗はともかく、
タイヤの皮むきまでとは思ってなかった。
申し訳なかったね」
「ただ運ぶだけなら、
バイク屋に頼めば済みますからね」
「あはははは。まぁ、そうだな。
で、どーよ? オレのSR」
「ヘッドライトの位置は少し下げたいですけど、
見た目は文句なくカッコイイです。
ただ、ボクの体格だと50kmが限界。
それ以上は拷問ですね」
「何か気になるところがあった?」
「フロントブレーキは思った以上に効きましたけど、
掛け始めがけっこうキツめな印象です。
じんわり握ったほうが良いかもしれません。
リアブレーキはあてにしない方が良いです。
シフトチェンジの感触は、
もうちょっとカチッとしててほしいかなぁ」
そんな話しをしながら、
ガレージでバイクを眺めつつビールを頂く。
至福の時。
誰かのバイクを納車するなんて、
これまでも無かったし、これからも無いだろう。
ありがとうございました。