「いいの。う、うれしかっ、たから」
社内研修を終えての打上げの席で、
講師のYRさんはおいしそうにビールを飲んだ。
「ホントに良いんですか?」
同伴していたメーカー担当者に訊かれると、
「うん。だ、大丈夫だ、よぉ」と答えた。
YRさんと初めてお逢いしたのが5年前。
その後、何度か社内研修に来て頂いていたのだが、
2年前に脳梗塞で倒れられた。
「言葉が、ね、も、も、もたつ、くから、
ごめ、迷惑じゃない、かって心配で」
そう言いながらも2時間以上の研修をして下さった。
そこまでの本格的な講師は、
倒れられてから初めてだという。
「以前が早口過ぎたから、ちょうど良かったですよ」
ボクがそう言うと大きな声で笑った。
「みなさ、んならね、そそ、そ、そう言ってくれると、
おも、思って、ま、ました」
「YRさんの話が聞けるのを、
みんなすごく楽しみにしていたしね。
今日だって盛り上がって予定よりずっと長くなったでしょ?」
うなずくYRさんの目に闘病とリハビリの苦労がにじんだ。
「またお呼びするんで、来て下さいね」
「じ、ゃあ、そ、その分のか、乾杯も」
ビールを注ぎ、グラスを合わせた。