ボクは年始の参拝をしない。
正確に言うと、神社へ行ってもおみくじを引かない。
両親がさほど信心深くなかったのもあるが、
そうした宗教や信条的な問題からではなく、
あることをきっかけに怖いと思うようになったからだ。
10代後半から20代前半まで、
年末年始といえばバイトに明け暮れていた。
クリスマス商戦の幕開けと同時に好条件で短期の仕事が増え、
それは2月に入る頃まで続いた。
慢性困窮症だったボクにとってはかき入れ時。
家族や彼女や友だちとのイベントどうこうよりも、
いかに稼げるかの大切な時期だった。
でも、その年度は就職したばかりで、
さすがに年末年始は休んでいた。
で、当時けっこう気になっていた女の子から、
お正月に鎌倉へ誘われて出掛けた時のこと。
まず最初に立ち寄った神社でおみくじを引いた。
と、「凶」が出た。
ま、そんなこともあるかと、次の神社へ。
で、おみくじを引くと「大凶」が出た。
「これって、ホンモノですよね」
おどけてそのおみくじを神社の女性に見せた。
「あらやだ。ホントに入ってるのね。
長いことここで働いてるけど初めて見たわ」
「前の神社は『凶』だったんだよね」
「あなたね、宝くじ買いなさい。きっと当たるわ。
大吉なんかよりそっちのほうがずっと珍しいんだから」
で、次の神社。
3度目の正直とおみくじを引くと「凶」。
「お祓いしてもらおうか」
なぜかちょっとうれしそうな女の子に、
軽く怒りを覚えながらも、さすがに怖くなり。
でも、ちゃっかりと宝くじは買い、
ご飯もしっかり食べ、デートらしきことをして帰った。
それからしばらく何もなく、
凶3連発は友だちとの飲み会の話題で終わっていた夏頃。
ボクは流行性結膜炎にかかり3週間、仕事を休んだ。
で、それから1ヶ月後に水疱瘡になり、2週間休んだ。
「そんなハズないわよ。
ちゃんと予防接種を受けさせたもの」
電話口で興奮するおふくろ。
「ほら、母子手帳にちゃんと・・・」
「ん? どうした」
「あれ? おかしいわね」
「何がおかしいの?」
「母子手帳に書かれてないのよ。
きっと病院の人が書き忘れたのね」
いや、違う。断じて違う。
あんたがオレの予防接種を忘れただけだ。
熱にうなわれながら、
軽い殺意を芽生えつつ電話を切ったことを、
今でもはっきりと覚えている。
ってなわけで、おみくじは引かないし、
年始の神社へは近寄らなくなった。