「困っちゃってさぁ」
ぜんぜん困っていない顔でTORさんは言った。
「で、どうされるんですか?」
「そこまで言われたら、仕方ないかなぁって思う」
1ミクロンも仕方ないと思ってない表情で頭を掻いた。
古いオープンカーを譲り受けるかもしれない。
TORさんがそんな話をしたのは2年ほど前か。
知人を通じて状態の良い英国車を勧められたという。
昨年完成させたガレージは、
その車を格納するためですらあったのだが、
提示された金額が思ったより高く、
また、長年の相棒、ロードスターを手放す決断ができず、
自然消滅となっていた。
ところが、最近になって提示された金額に、
大きな勘違いがあったと判明。
さらに、オーナーさん的には、
古いオープンカーを愛でているTORさんに、
ぜひとも譲り渡したいのだとか。
「転売やパーツ売りされるは耐え難く、
できるだけ長く乗り続けて欲しいと」
それを叶えられる人は、確かに多くない。
そして、その願いを託されたことを、
TORさんはうれしく思っている。
「で、いつ頃来るんですか?」
「まだ決めてないから」
「もう整備しないと今シーズンは乗れませんよ」
「いやいや。だからね」
「早く見たいなぁ。あのガレージで」
「お前、俺の話しを聞いてないだろ?」
「早く運転したいなぁ、古い英国車」
「・・・・・・。
誰がお前に運転させるって言った?」
何があっても運転させて頂く。
だって、弟子だもの