Spiral-World

めくるめく世界での個人的な日記

わすれじ

数年前のある日。

神奈川でスーパー銭湯に立ち寄った時のこと。

サウナを出て水風呂を浴び、

いつものように椅子でまどろんでいた。

サウナ好きの方はご理解下さると思うが、

その状態の人の多くは、

目は開けていてもほぼ何も見えていない(笑)

でも、その時に限ってボクの目は違和感を察知していた。

視界中央から少し左にそれた位置にいた小柄な男性の、

その背中に見覚えがあることに気づき、

ほどなく、それが誰なのかも解った。

八重樫東さん。

ボクシングの元世界3階級制覇王者が引退を表明した。

WBAWBCIBF各団体の最上位の世界王座だけで、

3階級制覇を達成した初の日本人チャンプ。

生涯戦績の7敗のうち6敗は世界戦。

そのうち5度は再挑戦した。

強者との打ち合いをいとわない闘いぶりで、

ファンから激闘王と呼ばれ愛された。

「敗者には何も残らない」

そう言われるボクシングの世界において、

負けてなおその名を高めた稀有な存在。

「人生には敗者復活戦がある」

そう語っていた人の背中は、

その体格に不釣り合いなほど大きく、たくましく、

そして、ホレボレとするほど美しかった。

いくつもの素晴らしい試合をありがとうございました。

おつかれさまでした。