蔵王へ向かう途中で休憩した時のこと。
駐車場の隅でKYSとタバコを吸っていると、
3歳くらいの女の子が1人で歩いているのが見えた。
GW真っ最中で、
駐車場はかなりのクルマが出入りしているが、
その子のまわりには見守る大人の姿が見えず。
さらに、
女の子が駐車中のクルマの間から車路へ進もうとし、
そこをクルマが通過しそうになったので、
両手を大きく振りながら急いで駆け寄り、
クルマに停まってもらった。
「何か探してるの?」
しゃがんで声を掛けると、黙って首を振る。
怖がられているのは明らかで、
無理に移動させようとすれば、
もっと怖がらせてしまう。
一緒に駆け寄ったKYSが察して、
ボクと女の子を避けるよう、
ドライバーに話してくれている。
「おじさんさ、猿を探してるんだけど、
どこかで見なかった?」
女の子がボクの目を見てくれた。
「お猿さん? いるの?」
「人と話せる猿が向こうにいるって聞いたんだけど、
おじさん、ここに来るの初めてでさ。
1人じゃ迷っちゃうから一緒に探してくれる?」
ボクが指差したレストランがある方向を見て、
女の子は少し迷ってから「いいよ」と言った。
「ありがとう」
そう言ってボクが手を差し出すと、
女の子は手を握ってくれた。
「パパとママもお猿さん探してるのかな?」
何も答えない。
「あっ、パパとママは君を探してるね」
「ううん。探してない」
その答えを聞いた時にイヤな感じがしたが、
そういうことを含めた焦りを悟られないように、
女の子のペースでゆっくり話しながら歩く。
駐車場からレストランへ登る階段に着いた頃、
30代前半の男性がのんびりと降りて来て、
ボクと女の子を見て言った。
「あぁ。こっちに来ちゃってましたか」
その話し方はまるで、
自分が見失ったボールを拾った相手に言うようで。
そして、女の子も無反応だったので、
彼が父親だと気づくのが少し遅れた。
「やっぱりパパが探してくれてたね」
ボクと繋いでいる手を渡そうと差し出すと、
女の子は父親の手を払い除け、
またボクと手を繋いで言った。
「お猿さん探そうよ」
ここも無理をしない方が良いなと思い、
父親に目配せをして女の子と一緒に階段を登り、
レストランの周りを少し歩いた。
「ここはずいぶん広いから、
パパと2人で向こうを探してくれる?
おじさんはこっちを探してみるから」
そこで父親が「ほら、向こうを探そう」と言い、
女の子はボクの手を離した。
「おじさん、迷子にならない?」
その言葉を聞いた時に、
不覚にも泣きそうになった。
「ありがとう。大丈夫だよ」
ほら、ありがとうって。バイバイって。
父親にうながされても黙ったままの女の子の髪を、
何度かなでて整え、その場を離れた。